【ただいま試運転中。少しずつ追加していきます】三島由紀夫の小説・戯曲から抜粋して呟きます。エッセイ・対談・書簡のbotはこちら→@MISHIMA_ESSAY 字数の関係上、出典の割愛や簡略化などもございます。

それは精神によって築かれた顔というよりは、むしろ精神によって蝕まれた顔である。この顔には精神性の或る過剰が、精神性の或る過度の露出があった。恥部を露わに語っている顔が醜いように、俊輔の醜さには、恥部を隠す力を失った精神の衰えた裸体のような、一種直視の憚られるものがあった-禁色-
3
12
3,823
私の足は捗らなくなった。思いあぐねた末には、一体金閣を焼くために童貞を捨てようとしているのか、童貞を失うために金閣を焼こうとしているのかわからなくなった。そのとき、意味もなしに「天歩艱難」という高貴な単語が心に浮び、「天歩艱難々々々々」とくりかえし呟きながら歩いた。-金閣寺-
3
3,505
醜いとしか言いようのない一人の老人の写真であった。尤も世間で精神美と呼ばれるようないかがわしい美点を見つけ出すことは、さして困難ではなかったろう。広い額、削ぎとられたような貧しい頰、貪欲さをあらわす広い唇、意志的な顎、すべての造作に、精神が携った永い労働の跡が歴然としていた-禁色-
1
3
2,254
今にして新治は思うのであった。あのような辛苦にもかかわらず、結局一つの道徳の中でかれらは自由であり、神々の加護は一度でもかれらの身を離れたためしはなかったことを。つまり闇に包まれているこの小さな島が、かれらの幸福を守り、かれらの恋を成就させてくれたということを。……-潮騒-
1
1
1,668
麗子は遅疑しなかった。さっきあれほど死んでゆく良人と自分を隔てた苦痛が、今度は自分のものになると思うと、良人のすでに領有している世界に加わることの喜びがあるだけである。苦しんでいる良人の顔には、はじめて見る何か不可解なものがあった。今度は自分がその謎を解くのである。-憂国-
1
3
1,394
そのころ彼の内心の唯一の希みは、自分の苦痛を青年らしく完全無欠な正当な苦痛と考える能力が授けられる幸福だけに懸っていた。またそれは自分の喜びを正当な喜びと考える能力なのである。つまり人生に必須な能力なのである。-禁色-
1,003
人間は、最後に、物質の性質をある程度究明して、原子力を発見したのです。水素爆弾は人間の到達したもっとも逆説的な事物で、今人間どもは、この危険な物質の裡に、究極の『人間的』幻影を描いているのです。 -美しい星-
1
4
994
虚栄心のみが危険を冒させる。私の場合は二十三にもなって童貞だと思われまいとする在り来りの虚栄心である。-仮面の告白-
1
3
1,048
「いやが上にも凡庸らしく。それが優れた人間の義務でもあり、また、唯一つの自衛の手段なのだ」-美しい星-
838
今を失ったら、僕たちはもう一生、盗みも殺人も人間の自由を証明する行為は何一つ出来なくなってしまうんだ。お座なりとおべんちゃらと、蔭口と服従と、妥協と恐怖の中に、来る日も来る日もびくびくしながら、隣り近所へ目を配って、鼠の一生を送るようになるんだ。-午後の曳航-
2
831
若者は彼をとりまくこの豊饒な自然と、彼自身との無上の調和を感じた。彼の深く吸う息は、自然を作りなす目に見えぬものの一部が、若者の体に深みにまで滲み入るように思われ、彼の聴く潮騒は、海の巨きな潮の流れが、彼の体内の若々しい血潮の流れを調べを合わせているように思われた。-潮騒-
2
847
隈なく美に包まれながら、人生へ手を延ばすことがどうしてできよう。-金閣寺-
1
2
746
「悠一君、この世には最高の瞬間というものがる」——と俊輔は言った。「この世における精神と自然との和解、精神と自然との交合の瞬間だ」-禁色-
714
十一月半ばのよく晴れた夜半すぎ、埼玉県飯能市の大きな邸の車庫から、五十一年型のフォルクスワーゲンがけたたましい音を立てて走り出した。エンジンが冷えていたので、音ばかり立てて発車に手間取るあいだ、乗っている人たちの不安な目はあちこちを探っていた。-美しい星-
722
宗教家が神秘と呼び、科学者が偶然と呼ぶもの、そこにこそ真の必然が隠されている-美しい星-
1
630
はみな、苦痛が決して伝播しないこと、しかも一人一人が同じ苦痛の『条件』を荷っていることを知悉しているのです。人間の人間に対する関心は、いつもこのような形をとります。同じ存在の条件を荷いながら、決して人類共有の苦痛とか、人類共有の胃袋とかいうものは存在しないという自信。-美しい星-
638
「世界を変貌させるのは決して認識なんかじゃない」と思わず私は、告白とすれすれの危険を冒しながら言い返した。「世界を変貌させるのは行為なんだ。それだけしかない」-金閣寺-
2
810
竜二はなお、夢想に涵りながら、熱からぬ紅茶を、ぞんざいに一息に飲んだ。飲んでから、ひどく苦かったような気がした。誰も知るように、栄光の味は苦い。-午後の曳航-
638
気まぐれこそ人間が天から得た美質で、時折人間が演じる気まぐれには、たしかに天の最も甘美なものの片鱗がうかがわれる。それは整然たる宇宙法則が時折洩らす吐息のようなもの、許容された詩のようなもので、それが遠い宇宙から人間に投影されたのだ。-美しい星-
2
640
われわれはすべて幻のなかに生きている。幻がだんだん現実のなかへしみこんで来て、明日をも知れぬ世にわれわれは生きている。ついそこまでが幻なら、今だって幻だといえるのだ。-朱雀家の滅亡-
549