成人 なんでも食べれる人向け FG○ たけちとたなか おだとあけち 倫理ないない気味 アイコン@fgoyou_niki 様
ALT もらいものの目覚まし時計は、今朝も単なる置き時計として静かに針を動かしている。自分にアラーム機能がついていることも、きっともう忘れているだろう。もうあと何年かしたら、目覚まし時計が必要になる時が来るのだろうか? 全然想像がつかない。少なくとも今のところ、起床のスタイルを変えるつもりは全くない。 カーテンが引っ張られて開く音。夜のふりをして微睡み続けていた部屋が、コップの水が溢れるみたいに朝になる。まぶしくて目をこする。窓から足音が近づいてきて、ベッドの傍に膝をつく。 「おはようございます」 控えめに囁く低い声。薄目の視界に、朝の光を背にした大きな影がうつる。赤い髪に光が透けてきらきらする。いつも通りの朝の景色。いつも通りの午前六時三〇分。いつも通りに返事を、しようとして、いつも通りにできなかった。 (…………おはよ……) 「……まだ戻りませんね」
ALT (元気なんだけどね) 体温計を渡されて、脇に挟む。もちろん熱なんかない。どこもかしこもぴんぴんしているのに、喉だけがここ数日、ずっとこの調子なのだ。声がかすれてうまく出せない。無理に出そうとすると裏返る。風邪の前触れじゃないかと心配されて、生姜湯だのハチミツ大根だのさんざん流し込まれたけれど改善することも崩れることもなく、無駄に体のポカポカする健康体の男子中学生が出来上がっただけだった。 パジャマを脱ぎ、用意されていた制服に袖を通しながら呟く。 (今日は音楽の授業があるから、治ってほしかったな……) 「お休みされますか?」 (しないってば) 田中君は少し過保護なところがある。きっと、自分の体が人並み外れて頑強だったという自覚があるから、普通の子供がどれくらい頑丈なのかよくわからないんだろう。心配されるのは嫌いじゃないけど、あんまり赤ん坊みたいに扱われるのは微妙な気分だ。だってもう、中学生なのだし。身長だってどんどん伸びている。田中君に比べたら、そりゃあ全然小さいんだけど。
ALT 「変声期だな」 音楽の時間は、一ヶ月後の合唱コンクールに向けた練習の初回だった。だから休みたくなかったというのもある。そんなに上手じゃないと分かっているが、歌うのは好きだ。クラスが一丸となる感覚も好きだ。 それなのにやっぱり喉がおかしくて、ソプラノのパート練習から引っ張り出されてしまった。ピアノのところに連れて行かれて、喉を覗き込まれ、ピアノの音に合わせてガサガサの声を確認されて、ものの一分ほどで下された診断がそれだった。 (へんせいき……?) 「男子は成長期に声帯の長さが倍近くにまで伸びる。指の長さがある日突然二倍になったら、今まで通りピアノを弾けるか?」 (弾けない、と、思います……) 「そうだな。しかし長い指を使いこなせるようになれば、それまで弾けなかった曲も弾けるようになるだろう。声帯も同じで、新しい喉の使い方さえ身につけば、以前とは違う深い声色を出せるようになる。逆に、これまでと同じ発声法を続けていては喉が潰れる」
ALT どうもこの喉の不調は一過性のものではないらしい。否、不調は治せるが、声が元に戻るわけではないということだ。大人の低い声に変わって、子供の声は出なくなるのだ。 「パートはテノールに移りなさい。昼休みに音楽室に来られるか? 喉の使い方を練習してみよう」 判で押したように同じ制服姿の子供らが、わらわらと校門から吐き出されてくる。新兵衛は少し離れたところで待ち、その波が落ち着いてから門へと送迎車を転がす。あまり早くから門前で待ち構えていると無用な怯えを生むからだ。主人の方も心得たもので、あえて遅れて門を出てくるのが常だった。 同じ制服を着ていても、飛び抜けて背が高いわけでなくても、主人のことは遠目にもすぐ分かる。背筋をしゃっきり伸ばして快活な大股でざくざく歩く、そのシルエットだけでも判別できると思う。本日もつつがなくお過ごしのご様子だ。喉風邪の具合だけが心配だったが、お熱などは出なかったようだ。