きらきらひかる。
きらきらひかる。
おかしい。
31歳の女がきらきら星を歌っている。
いや、違う。
31歳の女がきらきら星を自認している。
「私はきらきら星です」
星なのか?
歌なのか?
「歌です」
星ですらない。
自認が天体ではなく楽曲だった。
午前3時33分。
東京都某所。
31歳女性、職業事務員。
趣味はカラオケ。
特技は発光。
履歴書の名前欄にはこう書かれていた。
「きらきらひかる」
面接官が尋ねた。
「お名前は?」
「おそらのほしよ」
「年齢は?」
「31歳です」
「志望動機は?」
「まばたきしては」
「しては?」
「みんなをみてる」
怖い。
「では自己PRをお願いします」
女は立ち上がった。
「きらきらひかる」
その瞬間。
面接室の照明が爆発した。
蛍光灯が脱皮した。
天井から無数のドレミファソラシドが降ってきた。
面接官、音階に圧死。
しかし本当の恐怖はここからだった。
女は採用された。
配属先は経理部。
上司が尋ねた。
「この請求書、確認してくれる?」
「きらきらひかる」
「金額を確認して」
「おそらのほしよ」
「だから請求書!!」
「まばたきしては」
「仕事しろォォォ!!!」
会社の売上が音符になった。
営業利益がドになった。
経常利益がレになった。
純利益がミになった。
株式会社きらきら星、決算発表不能。
ニュース速報。
【31歳女性、自認きらきら星により東証が一時停止】
政府が緊急会見を開いた。
「全国で童謡の自認が急増しています」
「具体的には?」
「自認チューリップの42歳男性が確認されました」
終わった。
日本が終わった。
しかし31歳女性が突然泣き始めた。
「私……もう疲れました……」
「どうしたんですか?」
「最近……きらきらできないんです……」
医師が診察した。
「これは重症ですね」
「何の病気ですか?」
「歌なので天文学では診られません」
「じゃあ何科ですか!?」
「音楽科です」
違う。
絶対に違う。
女が突然発光した。
「きらきらひかるゥゥゥ!!!」
北海道が点滅した。
富士山が五線譜になった。
月がト音記号になった。
NASAが緊急会見を開いた。
「宇宙から謎の歌声を受信しました」
「内容は?」
「きらきら星です」
「発信源は?」
「東京都在住の31歳女性です」
宇宙、個人のカラオケ会場と化す。
しかし。
衝撃の事実が判明した。
音楽学者が叫んだ。
「彼女はきらきら星ではありません!!」
「じゃあ何なんだ!!」
「きらきら星の2番です!!」
沈黙。
2番?
きらきら星に2番があるのか?
女が震えた。
「私は……1番じゃないの……?」
空から巨大な女が降ってきた。
年齢32歳。
職業無職。
自認きらきら星1番。
「お前は私の続きだ」
「そんな……」
「お前はサビにすら到達していない」
「やめてェェェ!!!」
女が脱皮した。
中から音符が出てきた。
ド。
レ。
ミ。
ファ。
ソ。
ラ。
シ。
31歳女性、音階に分解。
最後に一つだけ音が残った。
「ド」
その音が呟いた。
「私は……きらきら星じゃなかった……」
「じゃあ何だったんだ?」
「ドレミの歌のドだった」
終わった。
童謡界が終わった。
空から巨大なドーナツが降ってきた。
「ドはドーナツのドォォォ!!!」
女が叫んだ。
「違う!!私は星なの!!」
ドーナツが答えた。
「お前は歌だろ」
正論。
翌朝。
市役所に一枚の届出が提出された。
【氏名変更届】
旧氏名:山田花子
新氏名:きらきら星
年齢:31歳
職業:童謡
変更理由:「最近、夜空に出勤できていないため」
職員が尋ねた。
「氏名変更には家庭裁判所の許可が必要ですが……」
女は答えた。
「きらきらひかる」
「だから日本語で話せェェェ!!!」
役所の天井が開いた。
宇宙が現れた。
女は浮かび上がった。
「さようなら……地球……」
「私は……本当の星になる……」
誰もが涙を流した。
しかし。
上空300メートル。
女の身体が突然停止した。
スマホに一件の通知。
【JASRACからのお知らせ】
「えっ!?私、著作権あるの!?」
宇宙から声がした。
「きらきら星の旋律はパブリックドメインです」
沈黙。
「じゃあ……私の価値は……?」
「無料です」
31歳女性。
自認きらきら星。
市場価格0円。
翌日、ハローワークから電話が来た。
「きらきら星さんですか?」
「はい」
「あなたにぴったりのお仕事があります」
「何ですか!?」
「保育園の午睡用BGMです」
女は泣いた。
ついに天職を見つけた。
しかし勤務初日。
園児が一言。
「先生、うるさいから止めて」
きらきら星、初日で再生停止。