放課後のCDショップ。
窓際の試聴機で大きなヘッドホンを当てていたホタルが、ふいに小さく息を呑む気配がした。
ヘッドホンから音は漏れてこない。僕には何も聞こえないはずなのに、微かに動く彼女の唇と、ふっと和らいだ表情だけで、曲が一番いいサビに入ったのだと分かった。
不意に彼女が目を開け、眩しそうに僕を振り返る。
夕暮れの西日を透かしたその瞳が、嬉しそうに細められた。
『……すごく、いい曲』
ヘッドホンの隙間からこぼれたのは、吐息のような短いひと言。
どんなメロディなのかは分からないけれど、その満足そうな笑顔を見ているだけで、僕の耳の奥にも同じ音楽が流れてきたような気がした。
昼休みの中庭、木漏れ日が揺れるベンチにふたりで並んで腰を下ろしていた。
隣で袋入りのメロンパンを小さく一口かじったホタルに、「おいしい?」と声をかけてみる。
彼女は咀嚼を終えるまで楽しそうに目を細めてみせ、ゆっくりと飲み込んでから、頬に手を添えて微笑んだ。
『うん。外がさくさくで……これ、好きなんだ』
ベンチの端に置かれた冷たい麦茶のボトルが、柔らかな日差しを浴びて透けている。
何気ない言葉の端々から、午前中の授業の緊張がほどけていくのが伝わってきた。
風に揺れる木々の葉音を聞きながら、僕たちはのんびりと、残り少ない午休の時間を分け合っていた。