僕は「移民問題」という言葉が嫌いだ。
「移民」という言葉で誰を指しているのかが曖昧なまま、話が進んでいく。しかも、その言葉を使う人たちが、実際にはどんな人たちを思い浮かべているのか、わかるからこそ、安易に使いたくない。
でも今は、あえてその言葉に乗って話したい。
僕は2007年から、パリ20区のBelleville地区に住んでいる。さまざまな国や地域にルーツを持つ人たちが暮らす街だ。僕自身も、日本からフランスに移り住んだ一人である。
今でこそ、ヒップなバーも多い人気の地域だけど、住み始めた頃は治安を心配する声もあり、わざわざ足を運ぶのをためらう人も少なくなかった。
僕自身、何の問題もなく暮らしてきたわけではない。近隣トラブルもあったし、空き巣には2回入られた。ひったくりに遭ったこともある。怖い思いも、腹の立つ思いもしてきた。
もちろん、その被害と、相手が移民かどうかは別の話だ。
それでも僕は、この街での暮らしが好きだ。
言葉も文化も背景も違う人たちと、日々顔を合わせ、少しずつ信頼関係を築いていく。最初は身構えていた相手とも、言葉を交わすうちに怖さが薄れ、困ったときには助け合えるようになる。
遠くから見れば「移民の多い地域」でも、僕にとっては、一人ひとり顔の浮かぶ人たちが暮らす街だ。
嫌な経験をしたことも、親切にされたことも、ここで築いてきた関係も、すべて僕にとっての現実だ。そのどれか一つだけで、この街の暮らしを語ることはできない。
だから、SNSで流れてくる映像だけを見て、ここに暮らす人たちをひとくくりにし、知ったように語られることには強い違和感がある。その映像の前にも後にも、僕らの日常は続いている。
誰にでも同じ暮らし方や感じ方を求めるつもりはない。僕の経験だけで、フランスや日本、世界全体の共存のあり方に答えが出せるとも思っていない。
でも、少なくとも僕らが長い時間をかけて築いてきた共存は、ここにある。
その暮らしを知ろうともせず、悪意あるデマや差別で、僕らの間に分断を持ち込むのはやめてほしい。